「シナリオプレゼンテーション」とは?(1)【シナリオプランニング技法】
先日、私が講師をしている企業様シナリオ研修の最終発表会が行われました。全12回、8カ月間に渡って行われてきた本研修は、研修生の上司や役員、人事など関係者をオーディエンスにした成果発表会にて終了。シナリオプランニングに全くかかわったことがなく、「シナリオとは?シナリオプランニングとは?」を学びたいと集まった方が多い研修生の皆さま。実際にシナリオを作成する研修の過程では皆さま苦労され、講師としても強く指導したこともありましたが、立派な発表に研修生の努力の跡がはっきりと見られ、講師としては心動かされるものでした。
さて、シナリオプランニングにおいて、作成されたシナリオをオーディエンスに届けるには、どんな方法が考えられるでしょうか?ざっと考えると、以下のような方法がありそうです。
- 図表などを交えた詳細な文章形式で冊子やWord、PDFにまとめて社内関係者に配布し読んでもらう
- 公開可能なものであれば、ウェブサイト形式にて公開しインタラクティブに広く親しんでもらう(例:キリンホールディングス様シナリオ)
- クライアント向け「シナリオプレゼンテーション」を行う
今回の研修で研修生の皆さまが実施した最終発表は、『3. クライアント向け「シナリオプレゼンテーション」を行う』の形をとっています。それはなぜか?それは、シナリオプレゼンテーションが、民間企業において最も有効にシナリオ活用につながる可能性が高いシナリオ伝達方法だからです。その理由と、シナリオプレゼンテーションのコツを以下、解説します。
良い「シナリオ」の3条件
「良いシナリオ」とは何でしょうか。我が社の将来を巡る事業環境が想定通りに変化し、我が社の戦略が大成功、中期経営計画が達成されるシナリオが良いシナリオ・・では、もちろんありません。良いシナリオには、以下の3つの条件があります。
- Prausible(なるほど、起こり得る、とオーディエンスが腹落ちできる)
- Challenging(今までに聞いたことがない目新しさや、敢えて直視することを避けてきた展開が含まれている)
- Relevant(クライアントの関心領域に応えている)
オーディエンス(=シナリオの聞き手)とクライアント(=シナリオの聞き手の中でシナリオ作成を要望した人)は、異なるものです。オーディエンスにはクライアントが含まれますが、クライアントでない人もオーディエンスに入る場合があります。例えば社内シナリオプロジェクトであれば、クライアントは某事業のシナリオ作成を部下に依頼した経営企画部長、オーディエンスは某事業に関わる社内ステークホルダー(某事業部や経営企画部など)といった形です。
上記3条件を満たすには、まずシナリオの内容(コンテンツ)がしっかりとしている必要があります。例えば、シナリオ検討のスコープは確かにクライアントが調査依頼した問いに応えているが、クライアント含むオーディエンスに新鮮な驚きがない目新しさのないシナリオ作品(Prausible、Relavantだが、Challengingではない)だったとします。すると、オーディエンスの感想は、なるほど、以前にも聞いたことのある内容だね、となり、「シナリオプランニングの目的」を果たしません。
異なる未来展開を複数創る「シナリオプランニング」。その「シナリオプランニングの目的」は、将来予測をして未来展開を言い当てることではなく、オーディエンスの視野を拡げること、それにより今まで対応できていなかった将来の機会やリスクにより良く備えること。そのためには、シナリオは、オーディエンスの行動や意思決定に影響を及ぼさなければなりません。前も聞いたことあるね、では、行動や意思決定に影響を及ぼさないため、シナリオを作った意味がありません。
行動や意思決定に影響を及ぼすシナリオとは、上記3条件を満たすものになります。そのため、最初からRelevantな検討スコープであることをプロジェクト設計に織り込み、シナリオ作成過程ではいかにクライアントやオーディエンスにとってChallengingな内容になるかを意識します。
ChallengingなシナリオをPrausibleと腹落ちしてもらうためには
上記3条件を同時に満足することは、容易でありません。なぜならば、PrausibleであることとChallengingであることは、相反するためです。
Challengingな内容になることを意識せずに作成すると、Challenging要素がまったくなく、どこかで聞いたことがあるシナリオになりがちです。一方、頑張って作成したChallengingなシナリオは、そんなことは起こり得ない、とオーディエンスに受け入れられず却下される可能性があります。そのため、良いシナリオというものは、世の中にそれほど多くは存在しません。
ChallengingなシナリオをPraisible(なるほど起こり得る)とオーディエンスに腹落ちしてもらうためにとても有効なのが、「シナリオプレゼンテーション」なのです。だからこそ、シナリオプレゼンテーションは、シナリオの有効活用につながる可能性の高いシナリオ伝達方法なのです。プレゼンテーターの力によっては、極めてChallengingなシナリオをPrausibleにもってくることすらできます。
そのために「シナリオプレゼンテーション」では様々な工夫をします。プレゼンテーターの力量によるところも多いのですが、そのコツ、工夫は、分かってさえればある程度誰でも使えます。コツ・工夫については、長くなってきましたので次回詳しく解説いたします。
(次回に続く)